コールセンター生活13日目 デビューの朝
1日の休みをはさんで、今日から実際の受電がはじまる。
高嶋は飲んでわめいてたことはあまり覚えてないようだった。
でも、高嶋に対しての自分の感情は以前とは違ったものになっていた。
ゲイの世界の出会いはその場限りのものが多く、非常に希薄な人間関係が多い。
正直言ってそんな人間関係に嫌気がさしていたので、普通の友達で良いから欲しいと思っていた。
はたして、高嶋とはそんな関係を続けていけるのだろうか。
このコールセンターは最初に立ち上げなくてはいけないシステムが異常に多く、最低でも15分くらいかかる。
しかも、席が変わるたびにそのシステムが初期化されてしまうので、毎朝設定をし直さなければならない。
つまり、出勤の時間は10:00なのだが、いつも9:30過ぎには席についていなくてはならない(その時間より前に入ることは出来ない)。
この日も9:35くらいに職場に行くと、先に井口さんがいた。
井口さんは40代後半くらいの女性で旅行会社の添乗員をやっているということなのだが、この時期は閑散期ということでここに短期でバイトをしに来ている。
「井口さん、おはようございます。」
「やっさんおはよう。いつも早いねー」
「井口さんもいつも早いですよね。今日から受電ですね。」
「そうだね。私はもう全然できる気がししないから、こうやって勉強してたのよ。年を取るとなかなか覚えが悪くてねー。若い人に置いてかれないように頑張らないと」
「井口さんは全然余裕じゃないですか。」
井口さんは実際、仕事が出来た。
電話の応対も特に問題がなかったし、何よりタイピングが異常なほど早かった。
なのでいつも聞き取ったことをほぼそのまま正確にタイピングしてメモを取って、質問していた。
「井口さんはこのあたりに住んでいるんでしたよね。」
「そうそう。すごく近所だから通いやすくて助かるわ。」
和田さん、西山さん、村上さん、かなりギリギリの時間で高嶋がやってきた。
高嶋は相変わらずボサボサ頭だ。
寝癖が相当ひどく、それを直す気もないようだ。
今時の若い子なのに珍しいやつだ。
和田さんはいつも通り、濃いめの化粧と年齢不相応な高そうな服を着ていた。
ストーカーをしている、堂前というやつは、なにが良くてこんな子のストーカーをしているのだろうか。
高嶋とも酔っぱらいながら話していたが、「ここで罵倒されながら稼いだ金をブスにつぎ込んいる」ようなもんだ。
まあ、しょせん喫茶店なので大した額ではないが・・・。
西山さんも今日は独特な雰囲気を持った格好をしている。カチューシャが印象的だ。
村上さんはさわやかな笑顔であいさつをしてきて、僕の隣に座った。品のいい奥様といった感じだ。
そして今日も河田さんは休みだった。
研修が終わる直前に翌月のシフト表が出ていたのだが、河田さんはしばらくお休みということになっていた。
しかし、澤田さんのように在籍がなくなっているということはなかったので、きっと戻ってくるのだろう。
さあ、今日から受電だ。一体どうなるのだろうか。