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コールセンター生活26日目 花見

コールセンターは僕の家の近所にあるのだが、通勤する途中の道に桜の並木道がある。

 

その桜が段々と咲いてきて春らしくなってきた。

 

もうかなり外の気温も暖かくなってきて、出社する途中で桜を眺めながら歩けるのは気持ちがいい。

 

「こんなにいい季節なのに、こんなところにずっといるのはもう嫌だ。」

 

今日は隣に座っている高嶋がいきなりそんなことを言い始めた。

 

なんだか最近、高嶋はストレスが溜まっている感じだ。

 

高嶋は髪はボサボサだし、なんだかヌボーっとした外見だし、時間はまったく守れなくいつも遅刻ギリギリで出社しているような奴だが、頭がいい。

 

ここの仕事もさっさと要領を得て手際よくこなすようになっていた。

そのため応答効率では新人の中でナンバー1だった。

 

ただし、たくさん受電する分、やっかいな案件にひっかかることも多く、そんなやっかいな案件を相談する高嶋に対して質疑担当や管理者は若干めんどくさそうに答えていた。

 

しかも高嶋は声やしゃべり方が若いので、電話の向こうの店舗スタッフに少しなめられてしまい、無理な要求をされることが多かった。

 

高嶋はそんな状況に最近嫌気がさしてきているようだった。

 

「そうだなー。こんなに桜がきれいなのにもったいね。それじゃあ、今日仕事が終わったら花見しようよ」

高嶋を誘ってみた。

 

「いいね!俺の家の近くの大きい公園に桜がすごく咲いてて、いつもそこで花見客がいるんだよ。そこに行こうよ!」

 

「いいじゃんそれ。じゃあコンビニで酒買ってそこで飲もう。」

 

「いいねぇ(笑)楽しみになってきた!」

 

 

 

その日、仕事が終わったあとその大きい公園に高嶋と行った。

 

二人で自転車をこいで、その公園に向かったのだが、夜になるとまだ少し肌寒かった。でも、高校生のころに戻ったみたいでなんだか楽しい。

 

二人で自転車をとばして(高嶋はスピードを出しすぎる。この前も車とぶつかってけがをしていた)、その墓地が併設されている公園に向かった。

 

公園に着くと、平日にも関わらず、花見客が結構いて、騒いでいた。

 

ここは住宅地からも割と離れているので結構みんな騒いでいた。

 

「俺、高校生のときに、受験勉強に疲れたらよくここの公園に来てたんだよね」

 

「高嶋の家からここって少し距離があるけど、こんなところまで来てたの?」

 

「うん、そう(笑)俺、あんまり家の中でじっとしてるのって好きじゃないから、ぶらぶら散歩もかねてここに来てたんだよ」

 

・・・たしかにこいつは部屋の中でじっとしているのが苦手そうだ。

職場の15分の休憩中でもいつもどこか外に行ってるし、一番最初の違うビルでの研修のときも休憩になるたびにどこかに行って、時間通り帰ってこなかった。

 

「やっさんはなんか最近俺のお兄さんみたいな感じになってきてるよ。やっさんはずっとあのコールセンターで働くの?」

 

「わからないな。6月で契約期間が終わるからそれで一旦辞めるかも」

 

「ふーん、そうなんだ。そしたらどうするの?」

 

「ある程度貯金も出来るから、放浪の旅をしようかな」

 

「どこに行くの?俺も一緒に行きたい!」

 

「北海道が実家だから、北海道にでも行こうかな。でも、お前は学校があるだろ」

 

「8月だったら学校も夏休みだし、大丈夫だよ。俺、やっさんと一緒に旅行したいな」

 

高嶋は酔っぱらうとなんだかかわいいことを言う。

 

桜も綺麗で、楽しい日だった。